
腸腰筋(イリオプソアス)損傷は、大腿骨前方への推進力と股関節の屈曲・内旋を担う筋群の過伸展・過負荷により発症します。アジリティ犬では後肢の蹴り出し低下、ストライド短縮、ジャンプ拒否や旋回性能低下として現れ、パフォーマンス低下の「隠れた原因」として見逃されやすい怪我です。
緊急性の高い所見
- 激しい疼痛で患肢を完全に挙上し着地できない・触診に強い抵抗を示す
- 股関節伸展検査で45°未満しか伸展せず悲鳴を上げる
- 腰神経根症状(起立不能、排尿・排便障害)を伴う場合は脊髄損傷・骨折を除外した上で即時精査・鎮痛が必要
鑑別診断と検査アルゴリズム

既往歴・運動歴
急激なターン・ジャンプ後の急性跛行、反復トレーニング量の増加が主な発症背景です。
視診・歩様解析
後肢の蹴り出し(股伸展)制限、腰背部のこわばり、円背姿勢が観察されます。
触診・機能検査
腰椎L3–L5付近での深部触診痛、股を伸展+内旋させた際の疼痛再現(Iliopsoas stretch test)が診断の鍵です。
画像診断
超音波検査では腫脹・低エコー域・線維化が確認でき、MRI/CTでは筋内出血・部分断裂・腱付着部損傷の詳細評価が可能です。
鑑別診断
膝蓋骨脱臼、前十字靱帯断裂、股関節形成不全、腰仙部椎間板疾患との鑑別が重要です。


治療の選択肢
消炎鎮痛
- 適応:疼痛緩和・炎症抑制
- 主要禁忌:消化管潰瘍、重度腎・肝障害
- モニタリング:食欲・下痢・嘔吐、BUN/Cre
- 用量は獣医師が判断します。必ず指示に従ってください
急性期疼痛管理
- 安静・冷罨法:氷冷15分、1日3–4回(48時間)
- 目標:炎症・浮腫軽減
- 注意:低体温に注意、皮膚温・不快感をモニタリング
機能回復(理学療法)
- 方法:ストレッチ、低出力レーザー、低衝撃歩行
- 頻度:週2–3回
- 目標:ROM改善・筋力回復
- 禁忌:急性炎症期

回復タイムラインとフォローアップ

- 初診後7–10日:再診で疼痛スコア・股関節伸展角を評価
- 4–6週後:超音波で線維化や液体貯留の改善を確認
- リハビリ導入:トレッドミル・水中トレッドミルは5分から開始し週毎に10–15%ずつ延長
- 復帰判定基準:無痛で股関節伸展150°以上、片側負重テスト正常、スプリント後の遅発性跛行なし
予後と長期管理
- 早期診断と適切な理学療法で6–8週で日常生活復帰、競技復帰は平均10–12週
- 再発率は20–30%。ウォームアップ・クールダウン・柔軟性トレーニングの徹底で低減可能
- 慢性化・線維化した場合はパフォーマンス低下が長期残存するリスクあり
飼い主が知っておくべきポイント

- 見た目の跛行が軽度でも無理に競技を継続すると慢性化しやすい
- ケージレスト期間と段階的な運動再開プランを文書で共有
- 疼痛サイン(舐め・噛み・動作拒否)と副作用(食欲不振・嘔吐)があれば即時連絡を
予防と実践的ヒント

- ウォームアップ:運動前5–10分(散歩+股関節可動域エクササイズ)
- クールダウン:運動後の静的ストレッチ・軽い散歩
- 過密なトレーニングスケジュールを避け、強度を段階的に増加
- 地面の状態を確認し、滑りやすい環境での急ターンを避ける
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