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犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)グレード別治療法と予防

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犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)グレード別治療法と予防

愛犬が突然後ろ足を引きずったり、スキップするような歩き方をしたことはありませんか?それはパテラ(膝蓋骨脱臼)のサインかもしれません。トイプードルやチワワなど小型犬に多いこの病気は、国内の犬の整形外科疾患の中でも特に頻度が高く、早期発見・早期対応が愛犬のQOLを大きく左右します。この記事では、獣医学論文をもとにパテラの原因・症状・グレード分類・治療法まで徹底的に解説します。

犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは?膝のお皿が外れる病気

膝蓋骨(しつがいこつ)とは、人間でいう「膝のお皿」の部分です。通常は大腿骨(太ももの骨)の前面にある溝(滑車溝:trochlear groove)にはまっており、膝の曲げ伸ばしをスムーズにする役割を担っています。

パテラ(patellar luxation)とは、この膝蓋骨が正常な位置からずれてしまう状態のこと。ずれる方向によって「内方脱臼(medial patellar luxation:MPL)」と「外方脱臼(lateral patellar luxation:LPL)」に分かれますが、小型犬においては内方脱臼が98%以上を占めます(※1)。

どんな犬種に多い?小型犬オーナーは特に要注意

パテラは特に以下の小型犬種で発症頻度が高いことが知られています:

  • トイプードル
  • チワワ
  • ポメラニアン
  • マルチーズ
  • ヨークシャー・テリア
  • ミニチュア・ピンシャー

英国の一次診療施設を対象とした大規模疫学研究(※1)では、パテラは犬全体の整形外科疾患の中でも上位を占め、特に小型・超小型犬種に集中していることが確認されています。両側性(両足)に発症するケースも多く、片側に症状が出たら反対側も要チェックです。

パテラ(膝蓋骨脱臼)になりやすい小型犬の例
パテラは小型犬に多く発症する整形外科疾患です

パテラの原因と発症のしくみ

パテラのほとんどは先天性・発育性の骨格異常が主な原因です(※1)。具体的には以下のような構造的問題が組み合わさって起こります:

  • 滑車溝が浅い(trochlear groove低形成):膝蓋骨を受け止める溝が浅く、脱臼しやすい
  • 脛骨粗面の内側偏位:膝蓋腱が付着する骨の突起が内側にずれており、膝蓋骨を引っ張る方向が歪んでいる
  • 大腿骨・脛骨のねじれや弯曲:骨全体の形が歪んでいることで力学的バランスが崩れる

これらは生まれつきの素因であることが多く、成長とともに悪化するケースが一般的です。外傷(ケガ)による脱臼もまれにありますが、小型犬の場合はほぼ構造的な問題が根本にあります。

こんなサインに要注意|パテラの症状チェックリスト

パテラの症状はグレード(重症度)によって異なりますが、代表的なサインは以下の通りです:

  • ✔ 突然後ろ足を上げてスキップするように歩く
  • ✔ 歩き方がぎこちない、足を引きずる
  • ✔ 立ち上がりや階段が辛そう
  • ✔ 膝を後ろに伸ばしてから歩き始める(脱臼した骨を戻そうとする動作)
  • ✔ 運動後に足を痛がる
  • ✔ 以前より活動量が減った

軽度の場合(グレードI〜II)は断続的な症状のため見逃されやすいですが、放置するとグレードが上がり、変形性関節症(OA)を合併して関節軟骨が侵食されることがわかっています(※3)。気になるサインが一つでもあれば、動物病院への相談をおすすめします。

グレードI〜IVの違いと重症度|Singleton分類とは

パテラは「Singleton分類」と呼ばれるグレード分類(I〜IV)で重症度を評価します(※2)。治療方針を決める上で最も重要な指標です。

グレード 状態 症状の目安
グレードI 手で押すと脱臼するが、放すと自然に戻る ほぼ症状なし〜たまにスキップ
グレードII 膝を曲げると脱臼し、伸ばすと戻る 断続的な跛行、スキップ歩行
グレードIII 常に脱臼しているが手で戻すことができる(すぐ再脱臼) 持続的な跛行、足を着かないことも
グレードIV 常に脱臼し、手で戻すことも不可能(重度の骨変形を伴う) 足を着けない、重篤な跛行

グレードIIIとIVでは骨の変形が進行しており、X線やCT検査で骨格の異常を詳しく評価する必要があります。また、グレードが高いほど前十字靭帯断裂(CrCL断裂)を合併するリスク(約9〜10%)も上がるため注意が必要です(※1)。

動物病院ではどんな検査をするの?

パテラが疑われる場合、動物病院では以下のような検査を行います:

  1. 整形外科検査:触診で膝蓋骨の動きを確認し、グレードを分類します。痛みの有無も確認します。
  2. X線検査:骨格の形状(滑車溝の深さ、脛骨粗面の位置、OAの有無)を評価します。
  3. CT/MRI検査:グレードIII〜IVでは、軟骨や靭帯の詳細な評価のためにCT・MRIが推奨されることがあります(※1)。
  4. 血液検査・尿検査:手術前の全身評価として実施することが多いです。

グレード別の治療法|保存療法か手術か

治療法はグレードと症状の重さによって選択します。

保存療法(主にグレードI〜II)

症状が軽く、跛行が断続的な場合は保存療法が選択されます:

  • NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛薬):カルプロフェンなどで痛みと炎症を管理します。
  • 理学療法・水中リハビリ:大腿四頭筋(quadriceps)の筋力強化により膝関節を安定させます。
  • 体重管理:肥満は関節への負担を増大させるため、適正体重(BCS 4/9目安)の維持が重要です。
  • 運動制限:跳び上がりや急激な方向転換など、膝に負担のかかる動作を制限します。

ただし、症状が4〜6週以上続く場合や徐々に悪化する場合は、手術への移行を検討します(※3)。

外科手術(主にグレードII〜IV)

グレードIII〜IVや、グレードIIで保存療法が無効な場合は手術が標準治療です(※1・※3)。主な術式:

  • 脛骨粗面転位術(TTT:Tibial Tuberosity Transposition):脛骨の突起を正しい位置に移動させ、膝蓋骨が正常な軌道を通るよう修正します。
  • 滑車溝形成術(Trochleoplasty):溝を深くする手術。ブロック法やスルコプラスティなどがあります。
  • 関節包縫縮術(Capsulorrhaphy):関節包を縫い縮めて安定性を補助します。

これらを組み合わせて行うことが一般的で、術後の予後はグレードI〜IIで90%以上が良好、重症のグレードIVでも手術により生活の質が大きく改善します(※3)。

手術後のケア|術後リハビリが回復の鍵

手術後の回復プログラムも予後に大きく影響します。術後リハビリに関する比較研究(※4)では、早期から適切なリハビリを開始することで回復期間が短縮されることが示されています:

  • 術後24時間以降:短いリードでの散歩・関節可動域訓練(PROM)を開始
  • 術後2・4・8週:X線検査で骨の癒合と安定性を確認
  • 術後3〜6か月:定期的な整形外科チェック

在宅では冷罨法(アイシング)・安静・痛み止めの適切な使用が重要です。傷口の感染、腫れの増大、持続する跛行などが見られたらすぐに動物病院に連絡してください。

犬の体重管理はパテラの進行防止に重要
体重管理はパテラの保存療法・予防として重要です

日常でできるケアと予防のポイント

パテラは先天性の要因が大きいため完全な予防は難しいですが、日常ケアで進行を遅らせることができます:

  • 適正体重の維持:肥満は膝関節への負担を増やし、グレードの進行を早めます
  • 滑りにくい床環境:フローリングにはマットを敷き、脱臼のきっかけとなる滑りを防ぎます
  • 過激な運動を避ける:高い場所への跳び乗り・跳び降りはできるだけ制限します
  • 筋力維持:適度なウォーキングで大腿筋群を維持し、膝を安定させます
  • 定期検診:特に小型犬は年1回の整形外科チェックで早期発見につなげます

まとめ|パテラは早期発見・早期対応が愛犬を守る

犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)は、特に小型犬に多い整形外科疾患です。軽度(グレードI〜II)であれば保存療法で管理できることも多いですが、放置すると変形性関節症(OA)や前十字靭帯断裂へと進行するリスクがあります。

「たまにスキップする」「足を引きずることがある」という小さなサインを見逃さず、早めに動物病院に相談することが愛犬のQOLを守る第一歩です。治療が必要な場合も、グレードに応じた適切な選択肢があります。獣医師と相談しながら、愛犬に最適なケアを続けてあげてください。


参考文献

  1. O’Neill DG, et al. “The epidemiology of patellar luxation in dogs attending primary-care veterinary practices in England.” PLoS ONE / BMC Veterinary Research. PMC. pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Gibbons SE, et al. “Lateral patellar luxation in nine small breed dogs.” PMC. pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  3. “Canine Patellar Luxation: Diagnosis and Treatment Options.” Today’s Veterinary Practice. todaysveterinarypractice.com
  4. “Comparative analysis of post-operative rehabilitation approaches for medial patellar luxation in small-breed dogs.” PMC. pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  5. WSAVA. “2022年版 疼痛の判別、診断と治療のWSAVAガイドライン.” wsava.org
  6. “Patellar luxation in dogs.” PMC. pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  7. “Medial patellar luxation induces cartilage erosion in dogs: a retrospective study of prevalence and risk factors.” PubMed. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

※本記事は獣医学論文および国際ガイドラインをもとに作成した情報提供を目的としたものです。診断・治療については必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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